冷たい雨音の調べは、心の哀しみを奏でていた。
大好きな、大好きな人と同じ顔をした男は
その心にどんな哀しみを秘めているのだろうか。


そして大切な恋人を、唯一の肉親に奪われたマナの哀しみは
いったいどれほどのものだったのだろう……


アレンにもそれは計り知れなかった。


おそらく、マナはこの双子の兄の存在を何らかの形で知っていたに違いない。
だから、アレンが幼かったあの日、あえてこの街を避けて通ったのだ。
それは単に、愛しい恋人との想い出に溢れたこの街を訪れることが
辛かったのかもしれない。
だが、アレンには不思議とそれだけではないように思えた。



「恋人を……マナの恋人を奪ったっていうのは、本当なんですか?」
「……ああ……」
「それが、あの奥さんだっていうのも?」
「ああ、全部本当だ。
 妻は貧しい家の生まれでね……
 当時の僕にはまだ財力があったから、
 彼女は家族を助けるために身を売ったっていうところかな?」
「それを……マナは知っていて身を引いたんですか?」
「おそらくね。
 彼女と別れてすぐにこの街を出たよ。
 彼女の身請けをするのがこの家だって知った途端、逃げるように居なくなったからね」
「そうですか……」



男はどこか遠くを見つめながら話続けた。



「彼女も初めのうちは辛かったんだろう。
 何度か自殺もしかけたしね……
 だけど、この家の財産が尽きた頃、彼女にこちらから別れ話をしたんだ。
 もう、私に義理立てする必要はないから、出て行って構わないと……
 だが、不思議と彼女はここに残った。
 それが愛なのか復讐なのか、僕には未だに判断がつかないが、
 今はどっちでも構わないと思っている。
 こんな私の傍にいてくれるだけで充分なんだから……」



男の瞳が悲しげに潤む。
自分のしたことが酷い事だとわかっていても、
それをせずにいられない状態に追い込まれていたのだろう。


今回だっておそらくそうだ。
あの男が儲け話を仕掛けない限り、この人もここまではしなかったに違いない。
二人のことを考えると、素直に売られてやるべきなのだろうが、
今のアレンにはそうもいってはいられない。



「……これから僕をどうするつもりですか?」



掠れた声で問いかけると、
男はさらにアレンの髪を撫でながら呟いた。



「……そうだな……
 察しのとおり、最終的にはキミをあの男に売り渡す事になるんだが……」
「……やっぱり……」



アレンが深い溜息を零すと、男はやんわりと続けた。



「このままあの男の慰み者になるのはさすがに気の毒だろう……
 だから、せめてものつぐないに、キミにこれをやろう」
「……え……?」



男が懐から取り出したものは、小さな薔薇色の粒だった。
一見、飴玉のようにも見えるが、それよりも一回り小さい。
ただ、何ともいえぬいい香りがそこから漂っているのが解る。



「……それは、一体なんなんですか?」
「……唯一、キミの痛みを取り除いてくれるものさ……」



アレンが不思議そうな顔で、その手を見詰ていると、
まるで不意打ちを喰らわす様に、男は手の中の粒をアレンの口に押し込んだ。

 

「……うっ……!」



鼻を摘まれ、口を塞がれる。


もがいてみたものの、苦し紛れの嚥下で、
その小さな粒はいとも簡単にアレンの体内へと落ちていった。



「……っ、なっ、何するんですかっ!」



男はアレンが飲み込んだことを確認するとその手を緩める。
途端に驚いて大声をだすアレンに向かって、
男はゆっくりと口を開いた。



「別に毒じゃないから安心していいよ。
 言っただろ? キミの痛みを緩和してくれるものだって……」
「……うっ……はぁ……
 なっ……なんだよ……これっ……!」



さりげないやりとりをしている間にも、
アレンの身体に異変が起こりだした。
身体の中がじりじりと焼け付くように熱くなり出したかと思うと
全身にじわりと汗をかく。
のどがヒリついて渇き、体中のあちこちが疼きだした。



「はじめはちょっと辛いけどね。
 すぐに楽になるよ……?」
「……くっ……ううっ……」



見る見る間にアレンの頬が上気する。
暑さと同時に、血が頭に上ったようにボーッとしだした。
身体全体が火照り、眩暈がする。



「どうだ? 少しは落ち着いてきたか?」



男は変わらぬ表情で、無造作にアレンの髪を掻き揚げた。
すると、さっきまでの心地よさとは全く違った疼きがアレンの全身を駆け抜ける。



「うわっ……!」
「……驚いたかい?
 今、キミが飲んだのは、催淫剤だよ。
 好きでもない男に、ただ弄られるだけではさすがに苦痛だろう?
 どうせだったら少しでも気持ちいいに越した事はないからね……」
「……そっ、そんなっ……!」
「見たところ、キミはまだ男性経験はないだろう?
 いきなり行為を強要されたら、それは痛いなんてもんじゃない。
 さすがの私も、キミの泣き叫ぶ姿を見るのは忍びないんでね。
 こんな仕打ちをしておいて今更とは思うが、
 これぐらいはさせておくれ……」



男の台詞に何やら言い返そうとしたが、
既に薬は全身を駆け回り、アレンの意識を朦朧とさせていた。
前から纏っていた衣服が微かに擦れるだけでも、その刺激に反応してしまう。
自分の意思とは関係なく、既に下半身は迫り出し頭を擡げていた。



「身体は素直だね……もう、苦しいだろう……」
「……あっ……!」



男はそう言うと、両手の自由を奪われたアレンの代わりに、
器用にズボンを脱がせ出した。
規制を解かれ自由になった下半身が、
外の刺激を受けてより一層高さを増す。



「悪いが手の鎖を外してやることは出来ないんでね……
 私が代わりにしてやってもいいが、どうする?」
「……んなっ……! いい……です……
 放っておいて……くだ……さいっ……」
「……そうか……?
 じゃあ、自分で何とかするしかないね……」



強がっては見たものの、下腹部にわだかまる欲望は熱を増すばかりで、
その吐け口を見出そうと、無意識に腰が動き出した。
シーツに己が擦れるたびに、その感触に思わず小さな声が漏れる。



「……うっ……はぁっ……」



すでに先端からは先走りの液が溢れ出ている。
自分が今曝け出しているであろう惨めな姿を思うだけで、
その恥ずかしさに自然に涙がこみ上げた。



――― カンダ……



脳裏に浮かび上がるのは愛しい人の顔だった。
昨日はあんなにも幸せに満ちた時間を過ごせたというのに、
どうして今はこんな状況に陥ってしまっているのだろう。
もう、愛しい人の元に帰ることは出来ないのか?
様々な想いが頭の中を交錯する。


左手のイノセンスを発動すればおそらくこの状況は逃れられる。
だが、人間相手にこの手を使うことはやはり躊躇された。



――― どうすればいい……どうすれば……



アレンが必死で欲望と格闘していると、
もう一人の怪しい人影が部屋の中に入り込んでいた。




「……ほほぅ……これは随分手際がいいじゃないか……」



耳慣れない声が部屋に響く。
それは自分が予想していた通りの、あの男の姿だった。


四肢を鎖で拘束され、下半身を露わにした少年の姿は、
男の欲情を煽る以外の何物でもない。
透けるような白い肌が上気して桃色に色付き、
瞳にうっすらと涙する姿は、今すぐにでも貪りつきたくなるほどの征服欲をそそる。



「……くくっ……これは堪らないねぇ……」



脂ぎった中年男が舌なめずるをする。
その横で、屋敷の主が嫌な顔をしてその光景を眺めていた。



「お約束通りにしましたよ。
 ですから、貴方様もお約束をお忘れなく……」



男がそう言うと、中年男は苛立った様子で睨みつけた。



「ったく、煩い奴だな。
 勿論、礼ははずんでやるよ。
 それより俺はこれからゆっくりと楽しみたいんだ。
 ちょっとは気を利かせろ……!」
「……はい……申し訳ありません……」



男はチラリと気の毒そうにアレンを見ると、
言われるがまま、その部屋を後にすべく踵を返す。



「……待っ……てっ……!」



――― お願い……置いていかないで……!



まるでマナに見捨てられるかのように感じたアレンは、
思わず男の後姿に向かって叫んだ。
しかし吐息が弾んでしまい、思うようにしゃべる事が出来ない。



――― ああ……これまでもうおしまいかな……



ギラつく厭らしい男を目の前に、アレンは諦めにも似た感情を抱いていた。

















                               NEXT⇒
                         
   次は裏(性描写あり)です★
                                  アレンくんのプチレイプシーンありですので
                                  苦手な方はご遠慮くださいm(_ _ ;)m







≪あとがき≫

アレンくん大ピーンチ!!!
催淫剤なんてベタな展開でゴメンなさい;
本当は監禁・拘束・薬漬けっていう3大ピンチが大好きなんですよ。
さすがにココではまずいかと思い、今度のオフ本に書いてみようと思っています。(爆;
たまにはエロ比70%以上……!
ナンテいう限界に挑戦してみたいなど、無謀なことを考えていたり……( ̄▽ ̄;)

さて、次回は裏です★
表放置にするか、裏部屋に隠すか……。
やはり倫理的に裏部屋行きですかね??
どういう展開になるのやら〜♪
お楽しみにしていてくださいねっ(⌒∇⌒)ノ""















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Spiritual whereabouts    9
           
――魂の在り処――